文学の歴史
文学としてのアーサー王の歴史の一部を年表としてマロリーまで列挙してあります。・・・あんまりよく分からないのは飛ばしてます。誤りなどがあった場合には、管理人までお知らせください。
ブリテンもの フランスもの ドイツもの イタリアもの
年代 | 国 | タイトル | 著者名 | 主な内容 |
550年頃 | ブリテンの 滅亡について |
ギルダス | アーサーという名前には触れてはいないが、ベイドン山の戦いについて述べられている。ブリトン人がサクソン人に勝利し、 しばらくの間平和が続いた、という記述がある。 | |
600年頃 | ゴッディン | アネイリン | 多くの敵を倒した英雄の事が述べられているが、その英雄について『アーサーではないが』という記述がある。 『アーサー』は既にメジャーな英雄としての認識がされている(?) | |
700年頃 | コロンバ伝 | アドムナン | ダルリアダの王の息子の名前がアーサー。既に『アーサー』という名前がアーサーの名声を反映している証拠と思われる(?) | |
800-20年頃 | ブリトン人の歴史 | ネンニウス | アーサーの戦歴に関する唯一の歴史的記述がある。アーサー自信は王ではなく、戦闘隊長といった立場として描かれている。 ベイドン山の勝利もアーサーの手柄となっている。 | |
960年頃 | カンブリア年代記 | ― | ネンニウスの著作と密接な関係があると思われる。ベイドン山の戦いと、カムランの戦いが記されている。 カムランの戦いでは、『アーサーとメドラウト(モードレッド?)が倒れた』との記述がある。 | |
1110-20年頃 | モデナ大聖堂の 彫刻 |
― | アーサーやガウェインが描かれている。文学ではないが、ウェールズ語による物を除くと、 どんなアーサー王ロマンスよりも早い時期の製作となっている。口承で伝説がヨーロッパ中に広がっている証拠(?) | |
1135 | マーリンの預言 | ジェフリ・ オブ・モンマス |
後の『ブリテン列王史』の第7巻として組み入れられる物語。マーリン自身の伝記とはほとんど関係ない。マーリンが予言した事が綴られている。 | |
1136 | ブリテン列王史 | ジェフリ・ オブ・モンマス |
ブリテンの王の歴史を史実として書いた物だが、実際はほとんどがジェフリによる空想的な物語である。 アーサーを実在した王として描いている。この物語により、ウーゼルのイグレイン略奪からモードレッドの謀反など、文学上のアーサー王伝説の基盤が確立された。 | |
1151 | マーリン伝 | ジェフリ・ オブ・モンマス |
アヴァロンのついての記述がある。アヴァロンはモルガン・ル・フェイを中心とした9人の妖精によって支配される『リンゴの島』とされている。 | |
1155 | ブリュ物語 | ヴァース | 『ブリテン列王史』のフランス語版だが、フランスの伝統文学により、『宮廷風恋愛』の要素を付加している。 また、円卓に関する記述が初めてなされている。 | |
1160-80 | トリスタン | トマ | 現存するトリスタンに関する詩としては最古の物。1150年ごろに成立した失われた『トリスタン』の原典を元にしている。 アーサーではなく、マルク王をイングランドの王としている。 | |
1170年頃 | トリスタン | アイルハルト | ドイツ語で書かれた詩の最古の物。失われた原典の『トリスタン』に多少の脚色を加えてドイツ語に翻訳されたもの。 | |
エレック | クレティアン・ ド・トロワ |
現存する最古のクレティアンの作品(現存しない物では、トリスタン伝説を扱ったものがあったと言う)。 アーサー王物語の世界に幻想的な冒険という設定が付加された。 | ||
1176年頃 | クリジェス | クレティアン・ ド・トロワ |
まったく性質の異なる物語が、アーサーの宮廷を背景とする事により、アーサー王物語群の作品として組み入れられた例のひとつ。 アーサー王の宮廷である『キャメロット』の名が、初めて使用されている。 | |
1180年頃 | ランスロ | クレティアン・ ド・トロワ |
ランスロットが主人公の、『荷馬車の騎士』として知られる作品。宮廷風恋愛の観念という、 ロマンスの最も重要な要素をクレティアンが自分の作品の中で初めて導入した作品。 | |
1190年頃 | ブルート | ラヤモン | ヴァースの『ブリュ物語』のフランスからの逆輸入版。しかしラヤモン自身も脚色を加えているので、よりブリテン臭くなっている。 円卓を1600人着席できるとした。 | |
トリスタン | べルール | べルールのやり方で失われた原典を忠実に語りなおした物。宮廷風な手法は用いられず現実的な物となっている一方、恋人たちの情熱や人間味も薄れている。 | ||
ペルスヴァル | クレティアン・ ド・トロワ |
ペレスヴァル(パーシヴァル)を主人公とした、クレティアンの最後の未完の作品。謎のオブジェ『聖杯(graal)』がはじめて登場する。 しかし、この作品ではそれが何であるか明らかにされていない。 | ||
エーレク | ハルトマン | クレティアンの『エレック』をもとにした作品。騎士道の壮麗さや魅力が強調されている。 | ||
1190-1210年頃 | ペルレスヴォー | ― | 『聖杯探求』を『新約聖書に忠実な、キリスト教徒アーサー』が宗教的な意味合いで命じたものとし、 宗教的(キリスト教的)な領域へ引き込んだ作品。 | |
1200年頃 | マビノギオン | ― | きわめて古い口承文学を基礎とした詩群を物語集としてまとめた物。ケルト的要素が強く、ほとんど外国の影響は受けていない。 『4つの枝のマビノギ』『旧世界のウェールズの物語』『アーサー王物語』『タリエシン』からなる。最終的な完成は後200年ほど待たねばならない。 | |
ランツェレット | ウルリッヒ・ フォン・E |
現存していないアングロ・ノルマン語のロマンス(ランスロットの誕生と、湖の女王による養育の主題など)から作られた作品。 | ||
1190-1210年頃 | パルチヴァール | ヴォルフラム | クレティアンの『ペルスヴァル』を元にした傑作。主人公パルチヴァールと副次的な主人公、ガーヴァーン(ガウェイン)が登場する。 騎士道の理想主義を最高点まで高めた作品。ワグナーのオペラ『パルジファル』の元となった。 | |
アリマタヤのヨセフ・ メルラン |
ロベール・ ド・ボロン |
聖杯を最後の晩餐の杯と同じ物とした。 | ||
1202年頃 | イーヴェイン | ハルトマン | クレティアンが1180年頃に作成した『イヴァン』を元にした、『エーレク』と同傾向の作品。 | |
1210年頃 | トリスタン | ゴットフリート | 宮廷風恋愛を取り上げ、純粋な情熱を注ぎ込んだ官能文学の傑作。 幻想的な場面は押さえられているにも関わらず宮廷風世界を美しく描写している。今までの文学にない『情熱』という恋愛観を発明した 。この詩は未完成で、白い手のイゾルデと結婚するべきか否か悩んでいるところで終わっている。 | |
1215-30年頃 | 流布本物語 | ― | アーサーの誕生から死までを描く物語を寄せ集めて散文形式でまとめ上げたもの。 ランスロットが主人公化し、ガラハッドがパーシヴァルに替わり聖杯探求の騎士となる。 | |
1225-35年頃 | 散文トリスタン | ― | 『トリスタンとイゾルト』の物語を基本にして大規模に練り上げられた作品。 原典に登場しているパロミデスやディナダンを登場させている。 物語の最後はトリスタンが竪琴をイゾルトに聞かせている時にマルク王が彼を毒槍で殺害している。 | |
1235-40年頃 | パラメデス | ― | やった!主人公じゃん!!(笑) | |
1250-1300年頃 | アーサーとマーリン | ― | 英詩のアーサー王ロマンスで最も古いもの。流布本物語の第2部の不完全な翻訳。 | |
1320-40年頃 | ガレスの パーシヴァル卿 |
― | 唯一、パーシヴァルが聖杯伝説とつながりを持たない作品。何故? | |
1360年頃 | 八行詩(スタンザ) アーサーの死 |
― | 最後の戦いなど、マロリーに用いられた作品。すなわち、グィネヴィアとランスロットの不貞がきっかけで アーサーがフランスへ出生している間にモードレッドが謀反を起こす、という内容のもの。 | |
1390年頃 | ガウェインと 緑の騎士 |
― | ガウェインが主人公の、中世英語詩の傑作。道徳や教訓を備えた、自然できわめて人間的な作品。ヴォルフラムの作品のように(?)硬派。 | |
1400年頃 | 頭韻詩 アーサーの死 |
― | 主に『ブリテン列王史』を基にし、ヴァースの『ブリュ物語』からも依拠がみられる作品。 同時代のオマージュとも取れる作者の独自の部分も多くみられる。この作品でアーサーはローマへ侵攻している。 大陸遠征中にモードレッドが謀反を起こしている。また、モードレッドが品位ある人物として描写されている。 | |
1470 | アーサー王の死 | マロリー | それまで散在していたフランス物・ウェールズ物などの物語をまとめ上げて一本の物語とした傑作。 マロリー自身の騎士道の解釈も当然加えられており、人物描写はよりいきいきと、物語はより悲劇性を帯びるものとなった。 アーサーが誕生するいきさつからローマ遠征・円卓の騎士の物語・最後の戦いと、壮大な物語が繰り広げられるまさに集大成といった作品。 | |
1485 | キャクストン版 アーサー王の死 |
マロリー | キャクストンによる印刷技術を用いた、マロリーの『アーサー王の死』の最初の出版。 |
参考図書:リチャード・バーバー著『アーサー王 その歴史と伝説』東京書籍